東京地方裁判所 昭和61年(特わ)706号 判決 1986年7月14日
(一)本店所在地
東京都新宿区百人町一丁目四番二一号
法人名
日本相互信販株式会社
右代表者代表取締役
村山重光
(二)本籍
東京都千代田区内神田一丁目二四番地
住居
同都豊島区目白二丁目二〇番二八号
会社役員
村山重光
昭和一四年一月一〇日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
一 被告人日本相互信販株式会社を罰金二九〇〇万円に処する。
二(1) 被告人村山重光を懲役一年六月に処する。
(2) この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人日本相互信販株式会社(以下被告会社という。)は、東京都渋谷区千駄ヶ谷四丁目一六番地一〇号(昭和五九年四月九日以降は同都新宿区百人町一丁目四番二一号)に本店を置き、不動産の売買等を目的とする資本金三〇〇万円(同五九年二月八日以降は資本金一二〇〇万円)の株式会社であり、被告人村山重光(以下被告人という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を総括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、不動産の売上、販売手数料収入、受取利息及び期末棚卸高等を除外し、売上除外等に対応して仕入高の一部を簿外とするなどの方法により所得を秘匿したうえ
第一 昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六三四一万九〇〇六円で、課税土地譲渡利益金額が一億五七八一万円あった(別紙(一)修正損益計算書及び別紙(四)ほ脱税額計算書(1)参照)のにかかわらず、同五六年六月一日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額は五九一万七二一〇円で課税土地譲渡利益金額が九八一万七〇〇〇円であり、これに対する法人税額は、控除所得税額を控除すると合計で三三六万二五〇〇円となる旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六一年押第五九三号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五五八三万二〇〇〇円と右申告税額との差額五二四六万九五〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書(1)参照)を免れ
第二 昭和五六年四月一日から同五七年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が三三七七万九九八三円で、課税土地譲渡利益金額が三七三〇万九〇〇〇円あった(別紙(二)修正損益計算書及び別紙(四)ほ脱税額計算書(2)参照)のにかかわらず、同五七年五月三一日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額八三六万四九六五円で課税土地譲渡利益金額はなく、これに対する法人税額は控除所得税額を控除すると二一八万一六〇〇円となる旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇三一万七七〇〇円と右申告税額との差額一八一三万六一〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書(2)参照)を免れ
第三 昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五八一八万三四四九円で、課税土地譲渡利益金額が六三七二万七〇〇〇円あった(別紙(三)修正損益計算書及び(四)ほ脱税額計算書(3)参照)のにかかわらず、同五八年五月三〇日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六三八万九三五七円で課税土地譲渡利益金額は三一三三万六〇〇〇円であり、これに対する法人税額は控除所得税額を控除すると合計で七九四万六一〇〇円となる旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の4)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三五九八万四四〇〇円と右申告税額との差額二八〇三万八三〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書(3)参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人の
(1) 当公判廷における供述
(2) 検察官に対する各供述調書(一七通)
一 加山文夫、高橋俊男及び三枝武夫の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の三枝武夫に対する質問てん末書
一 加山文夫作成の申述書
一 検察事務官作成の報告書
一 収税官吏作成の次の調査書
(1) 売上高調査書
(2) 当期仕入高調査書
(3) 期首たな卸高調査書
(4) 期末たな卸高調査書
(5) 福利厚生費調査書
(6) 交際接待費調査書
(7) 旅費交通費調査書
(8) 支払手数料調査書
(9) 広告宣伝費調査書
(10) 販売手数料調査書
(11) 雑費調査書
(12) 登記測量費調査書
(13) 受取利息調査書
(14) 雑収入調査書
(15) 支払利息調査書
(16) 交際費の損金不算入額調査書
(17) 事業税認定損調査書
(18) 課税土地譲渡利益計算調査書
一 押収してある法人税確定申告書三袋(同押号の1、3、4)
判示各事実につき
一 丸山正雄の取引内容照会に対する回答書(判示第三)
一 収税官吏作成の次の調査書
(1) 販売手数料収入調査書(判示第二)
(2) 給料手当調査書(判示第一、第二)
(3) 賞与手当調査書(判示第一、第二)
(4) 水道光熱費調査書(判示第一)
(5) 通信費調査書(右同)
(6) 事務用品調査書(右同)
(7) 消耗品費調査書(右同)
(8) 車輌費調査書(右同)
(9) 図書新聞費調査書(右同)
(10) 租税公課調査書(右同)
(11) 仲介手数料調査書(判示第一、第三)
(12) 名義借料調査書(判示第一、第二)
(13) 貸倒損失調査書(判示第三)
(14) 役員賞与等の損金不算入調査書(判示第一、第二)
一 押収してある法人税修正申告書一袋(同押号の2、判示第一)
(法令の適用)
法律に照らすと、被告会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当すところ、情状によりそれぞれ同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額以下において被告会社を罰金二九〇〇万円に処し、被告人村山の判示各所為は、法人税法一五九条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、後記情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
(量刑の理由)
本件は、不動産の売買等を目的とする被告会社において、その代表取締役である被告人が被告会社の業務に関し、三期分で合計九八六〇万円余の法人税をほ脱したという事案であり、そのほ脱税額は相当高額で、税ほ脱率も通産で八七パーセントを越えており、被告人の納税意識が低いことは明らかである。
被告人は、昭和三〇年代の後半から不動産の売買や仲介を業とし、同五二年春以降被告会社の業務としてこれを行うようになったが、同五四年ころからその業績が伸長するのに伴い、土地重課税を含む法人税納付額が高額となることから、簿外資金を蓄積して将来に備えるため本件脱税を企図するに至ったものであり、動機において格別斟酌に値するものはなく、また、犯行の手段、態様をみても、不動産売買の一部を当初から他人名義で行い、その収益を簿外としたほか、申告所得額を年間五〇〇万円程度に押さえるため、経理担当者に具体的な経理操作を指示するなどしており、犯情悪質といわなければならない。加えて被告人には、昭和四〇年代ではあるが、詐欺罪により懲役刑(執行猶予)に処せられた前科があり、被告人及び被告会社は、同五六年一二月、国土利用計画法違反(いわゆる市街化調整区域の無許可売買)の罪によりそれぞれ罰金二〇万円に処せられているのであって、これらを総合すると、被告人の刑責は軽視することができない。
しかしながら、他面、本件脱税額は前記のとおりであって巨額とはいえないこと、ほ脱所得の隠ぺい方法が比較的単純であること、被告人は、本件につき査察調査を受けた昭和五八年一〇月以降、本件犯行のすべてを自白し、捜査及び公判を通じて反省の態度を表わしており、本件脱税額については、三事業年度とも修正申告のうえ、各本税、附帯税及び地方税のすべてを完納していること、被告会社の経理体制の改善など被告人のために斟酌すべき事情も認められ、これらを総合勘案すると、被告人対してはこの際刑の執行を暫らく猶予し、その自戒に委ねるのが相当である。
(求刑 被告会社につき罰金三五〇〇万円、被告人につき懲役一年六月)
よって、主文のとおり判決する。
検察官江川功、弁護人神宮壽雄各出席
(裁判官 小泉祐康)
別紙(一) 修正損益計算書
日本相互信販株式会社
自 昭和55年4月1日
至 昭和56年3月31日
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
日本相互信販株式会社
自 昭和56年4月1日
至 昭和57年3月31日
<省略>
別紙(三) 修正損益計算書
日本相互信販株式会社
自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
<省略>
別紙(四) ほ脱税額計算書
(1) 自 昭和55年4月1日
至 昭和56年3月31日
日本相互信販株式会社
<省略>
(2) 自 昭和56年4月1日
至 昭和57年3月31日
<省略>
(3) 自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
<省略>